フリーランスに給与所得控除は使える?対象外となる理由と節税できる控除を解説
はじめに
フリーランスとして働き始めると、「会社員には給与所得控除があるのに、フリーランスにも同じ控除は使えるのか」と疑問に思う方は少なくありません。特に、会社員から独立したばかりの人や、副業で業務委託収入を得ている人にとって、給与所得控除と経費、青色申告特別控除の違いは分かりにくいポイントです。
結論からいうと、フリーランスの収入は原則として「給与所得」ではなく「事業所得」または「雑所得」に分類されるため、給与所得控除は基本的に使えません。給与所得控除は、給与等の収入金額から一定額を差し引いて給与所得を計算する仕組みであり、対象は給与所得のある人です。国税庁
ただし、フリーランスだからといって節税できないわけではありません。必要経費の計上、青色申告特別控除、基礎控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除など、フリーランスが活用できる控除や制度は複数あります。本記事では、フリーランスと給与所得控除の関係、給与所得控除が使えない理由、代わりに活用できる節税方法を分かりやすく解説します。
1. フリーランスに給与所得控除は使える?結論は「原則使えない」
1-1. 給与所得控除は会社員などの「給与所得者」に適用される控除
給与所得控除は、会社員、パート、アルバイト、役員など、給与を受け取る人に適用される控除です。給与所得は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算します。つまり、給与所得控除は「給与所得を計算するための控除」であり、給与ではない収入には原則として使えません。国税庁
会社員の場合、勤務先から受け取る給与は源泉徴収票に「支払金額」として記載されます。この金額をもとに給与所得控除が計算され、給与所得が求められます。実際に仕事のために使ったスーツ代、文房具代、通信費などを一つひとつ経費にする代わりに、一定の概算額を差し引ける仕組みと考えると分かりやすいでしょう。
1-2. フリーランスの収入は原則「事業所得」または「雑所得」に分類される
フリーランスが業務委託契約などで受け取る報酬は、多くの場合「事業所得」または「雑所得」に分類されます。国税庁は、事業所得について、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営む人が、その事業から得る所得と説明しています。事業所得の金額は「総収入金額-必要経費」で計算します。国税庁
例えば、Webライター、デザイナー、エンジニア、カメラマン、動画編集者、コンサルタントなどが、独立して継続的に仕事を受注している場合は、事業所得に該当する可能性があります。一方、継続性や事業性が弱く、副次的な収入にとどまる場合は、雑所得として扱われることがあります。
1-3. フリーランスが給与所得控除を使えない理由
フリーランスが給与所得控除を使えない理由は、収入の性質が給与ではないからです。給与所得控除は、雇用契約などに基づいて給与を受け取る人の給与所得を計算するための控除です。一方、フリーランスの業務委託収入は、発注者から仕事の成果や役務提供の対価として受け取る報酬であり、給与とは区別されます。
給与所得控除が使えない代わりに、フリーランスは事業に必要な支出を「必要経費」として差し引けます。必要経費には、収入を得るために直接要した費用や、その年に生じた販売費・一般管理費など業務上の費用が含まれます。国税庁
つまり、会社員は原則として給与所得控除で概算経費を差し引き、フリーランスは実際にかかった必要経費を積み上げて差し引く、という違いがあります。
1-4. 会社員の副業フリーランスなら給与部分には給与所得控除が使える
会社員として給与を受け取りながら、副業でフリーランス収入を得ている場合は、給与部分には給与所得控除が使えます。一方、副業の業務委託収入には給与所得控除は使えず、事業所得または雑所得として必要経費を差し引いて計算します。
例えば、会社から年収400万円の給与を受け取り、副業ライターとして年間100万円の報酬を得ている場合、年収400万円の給与には給与所得控除が適用されます。一方、副業ライターの100万円については、原稿作成に必要なパソコン代、通信費、取材交通費、書籍代などを必要経費として計上します。
このように、同じ人であっても、収入の種類ごとに所得区分が分かれます。「フリーランスだから給与所得控除が一切関係ない」というより、「給与所得に該当する部分にだけ給与所得控除が使える」と理解しましょう。
2. 給与所得控除とは?会社員に認められる仕組み
2-1. 給与所得控除の目的は会社員の概算経費を差し引くこと
給与所得控除は、会社員など給与所得者の収入から一定額を差し引く制度です。会社員も仕事をするうえで、スーツ、靴、書籍、通信費、文具などの支出が発生することがあります。しかし、会社員がこれらを個別に必要経費として計上することは、フリーランスほど自由には認められていません。
そこで、給与収入に応じた一定額を控除することで、給与所得者にも概算的な経費相当額を認める仕組みになっています。これが給与所得控除です。
ただし、給与所得者にも「特定支出控除」という制度があります。一定の通勤費、職務上の旅費、研修費、資格取得費などの特定支出が給与所得控除額の2分の1相当額を超える場合、確定申告により超える部分を差し引ける制度です。国税庁
2-2. 給与所得控除額は給与収入に応じて決まる
給与所得控除額は、給与等の収入金額に応じて段階的に決まります。令和7年分以降の給与所得控除額は、給与収入190万円までの場合は65万円、190万円超360万円以下の場合は「収入金額×30%+8万円」、360万円超660万円以下の場合は「収入金額×20%+44万円」、660万円超850万円以下の場合は「収入金額×10%+110万円」、850万円超の場合は195万円が上限です。国税庁
| 給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 190万円まで | 65万円 |
| 190万円超360万円以下 | 収入金額×30%+8万円 |
| 360万円超660万円以下 | 収入金額×20%+44万円 |
| 660万円超850万円以下 | 収入金額×10%+110万円 |
| 850万円超 | 195万円 |
令和7年度税制改正により、給与所得控除の最低保障額は55万円から65万円に引き上げられました。国税庁 ただし、この引き上げは給与所得者に関する改正であり、業務委託収入そのものに給与所得控除が適用されるわけではありません。
2-3. 給与所得控除と基礎控除の違い
給与所得控除と基礎控除は、名前は似ていてもまったく別の控除です。
給与所得控除は、給与所得を計算する段階で給与収入から差し引く控除です。給与所得者にだけ関係します。一方、基礎控除は、納税者本人の合計所得金額に応じて適用される所得控除で、会社員だけでなくフリーランスにも適用されます。
令和7年分・令和8年分の基礎控除は、合計所得金額に応じて95万円、88万円、68万円、63万円、58万円などに区分され、合計所得金額が2,500万円を超える場合は0円になります。令和9年分以後は一部の加算措置が変わります。国税庁
フリーランスにとって重要なのは、「給与所得控除は原則使えないが、基礎控除は要件を満たせば使える」という点です。給与所得控除と基礎控除を混同しないようにしましょう。
2-4. 給与所得控除と経費計上の違い
給与所得控除は、給与収入に応じて自動的に計算される控除です。原則として、会社員が実際にいくら仕事関連の支出をしたかにかかわらず、一定の計算式で控除額が決まります。
一方、フリーランスの経費計上は、実際に事業のために使った支出を記録し、領収書や請求書などの証拠を残しておく必要があります。例えば、業務で使うパソコン、ソフトウェア、通信費、取材費、外注費などは、事業との関連性を説明できる範囲で必要経費になります。
給与所得控除は「概算」、フリーランスの経費計上は「実額」と考えると理解しやすいでしょう。フリーランスは給与所得控除を使えない代わりに、事業に関係する支出を正しく集計することで所得を抑えることができます。
3. フリーランスの所得区分と税金の考え方
3-1. 事業所得になるケース
フリーランス収入が事業所得になるのは、継続性、反復性、独立性、営利性などがあり、事業として行っているといえるケースです。例えば、個人事業主として開業し、複数の取引先から継続的に案件を受注し、売上や経費を帳簿で管理している場合は、事業所得に該当する可能性があります。
事業所得の金額は「総収入金額-必要経費」で計算します。国税庁 さらに、青色申告の承認を受けて要件を満たせば、青色申告特別控除などのメリットを受けられます。
事業所得になると、赤字の取扱いや青色申告特別控除など、税務上の影響が大きくなります。そのため、フリーランスとして継続的に活動するなら、開業届や青色申告承認申請書の提出も検討しましょう。
3-2. 雑所得になるケース
雑所得は、給与所得、事業所得、不動産所得、配当所得、一時所得など、他の所得区分に当てはまらない所得です。副業収入や単発の業務委託収入などで、事業といえるほどの規模や継続性がない場合、雑所得に分類されることがあります。
雑所得でも、収入を得るために必要な支出は差し引けます。ただし、青色申告特別控除の対象にはなりません。国税庁も、青色申告をすることができる人は、不動産所得、事業所得、山林所得のある人としています。国税庁
副業フリーランスの場合、収入が少額であっても、帳簿や領収書を残しておくことが重要です。雑所得だから経費が一切使えないわけではありませんが、事業所得とは異なる点を理解しておきましょう。
3-3. 給与所得になるケース
フリーランスのように働いていても、実態として雇用契約に基づく給与を受け取っている場合は、給与所得に分類されます。例えば、会社と雇用契約を結び、勤務時間や勤務場所の拘束を受け、給与として支払いを受けている場合は、給与所得になるのが一般的です。
また、アルバイトやパートとして受け取る収入も給与所得です。フリーランス収入とは別にアルバイト収入がある場合、アルバイト収入には給与所得控除が適用されます。
法人成りして自分の会社から役員報酬を受け取る場合も、役員給与は給与所得になります。国税庁も、同族会社の役員が受け取る役員給与は給与所得になると説明しています。国税庁
3-4. 所得区分を間違えると税額や控除に影響する
所得区分を誤ると、使える控除や税額に影響します。事業所得として申告できるものを雑所得として申告すると、青色申告特別控除や赤字の繰越しなどのメリットを受けられない可能性があります。一方、実態として事業といえないものを無理に事業所得として申告すると、税務上問題になることがあります。
また、給与所得と事業所得を混同すると、給与所得控除と必要経費の扱いを誤る原因になります。給与収入には給与所得控除、業務委託収入には必要経費というように、収入の種類ごとに整理することが大切です。
4. フリーランスが給与所得控除の代わりに使える節税方法
4-1. 必要経費を正しく計上する
フリーランスにとって最も基本的な節税方法は、必要経費を正しく計上することです。事業所得や雑所得の金額を計算する際、収入を得るために直接必要な費用や業務上の費用は必要経費にできます。国税庁
例えば、業務用パソコン、ソフトウェア、通信費、取材交通費、外注費、打ち合わせ費、広告宣伝費などは、事業との関連性があれば経費計上の対象になります。自宅兼事務所の家賃や光熱費も、事業で使っている部分を合理的に按分できる場合は、その部分を経費にできます。国税庁も、家事上の経費は必要経費にならない一方、業務遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合は、その部分を必要経費にできると説明しています。国税庁
節税の基本は、使ったお金を漏れなく経費にすることではなく、「事業に必要な支出を、根拠をもって記録すること」です。
4-2. 青色申告特別控除を活用する
事業所得があるフリーランスは、青色申告を活用することで節税効果を高められます。青色申告特別控除は、要件を満たすことで最高65万円、55万円、または10万円の控除を受けられる制度です。
最高65万円の青色申告特別控除を受けるには、原則として複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告し、さらにe-Taxによる電子申告または一定の電子帳簿保存を行う必要があります。国税庁
給与所得控除が使えないフリーランスにとって、青色申告特別控除は非常に重要な節税手段です。継続的にフリーランスとして活動するなら、早めに青色申告の準備を始めましょう。
4-3. 基礎控除を適用する
基礎控除は、会社員にもフリーランスにも適用される所得控除です。給与所得控除とは異なり、給与所得者だけの制度ではありません。
令和7年分・令和8年分の基礎控除は、合計所得金額に応じて最大95万円です。ただし、合計所得金額が増えると控除額は段階的に変わり、2,500万円を超える場合は0円になります。国税庁
フリーランスの場合、売上から必要経費や青色申告特別控除を差し引いた後、基礎控除などの所得控除を差し引いて課税所得を計算します。給与所得控除が使えなくても、基礎控除は忘れずに適用しましょう。
4-4. 社会保険料控除を活用する
フリーランスが支払う国民年金保険料、国民健康保険料、介護保険料などは、社会保険料控除の対象になります。社会保険料控除は、本人や生計を一にする配偶者・親族のために支払った一定の社会保険料を所得から差し引ける制度です。
会社員時代は給与から天引きされていた社会保険料も、フリーランスになると自分で納付する場面が増えます。納付額は所得控除に反映されるため、控除証明書や納付記録を保管しておきましょう。
4-5. 小規模企業共済等掛金控除を活用する
小規模企業共済やiDeCoなどの掛金は、小規模企業共済等掛金控除の対象になる場合があります。国税庁は、小規模企業共済法に基づく共済契約の掛金、企業型・個人型確定拠出年金の加入者掛金、一定の心身障害者扶養共済制度の掛金が対象になると説明しています。国税庁
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者の退職金制度のような役割を持つ制度です。中小機構も、小規模企業共済の掛金は全額が小規模企業共済等掛金控除として所得から控除できると案内しています。共済サポート navi
ただし、掛金は必要経費ではなく所得控除です。帳簿上の経費として処理するのではなく、確定申告で所得控除として反映させる点に注意しましょう。
4-6. 生命保険料控除・地震保険料控除を確認する
民間の生命保険、介護医療保険、個人年金保険などに加入している場合は、生命保険料控除の対象になる可能性があります。また、地震保険に加入している場合は、地震保険料控除の対象になることがあります。
これらは事業の必要経費ではなく、個人の所得控除です。保険会社から届く控除証明書をもとに、確定申告で入力します。フリーランスは年末調整がないため、自分で申告しないと控除を受けられません。
4-7. 医療費控除・セルフメディケーション税制を検討する
年間の医療費が多い場合は、医療費控除を検討しましょう。医療費控除を受けるには、医療費控除の明細書を作成して確定申告書に添付する必要があります。医療費の領収書は、一定期間自宅で保管する必要があります。国税庁
また、一定の市販薬を購入した場合は、セルフメディケーション税制を使えることがあります。ただし、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は選択適用であり、同時に両方を使うことはできません。国税庁
フリーランスは体調不良が収入に直結しやすいため、医療費や薬代の管理も重要です。領収書を月ごとにまとめておくと、確定申告時に慌てずに済みます。
4-8. 扶養控除・配偶者控除・配偶者特別控除を確認する
家族を扶養している場合は、扶養控除、配偶者控除、配偶者特別控除を確認しましょう。配偶者や扶養親族の所得金額、自分自身の合計所得金額によって、適用できるかどうかや控除額が変わります。
特に、フリーランスは年によって所得が大きく変動することがあります。前年は控除対象だった家族が、今年は所得要件を超えることもあります。反対に、収入が減った年は控除を受けられる可能性が出てくることもあります。
確定申告の際は、家族の収入や所得を確認し、適用できる控除を漏れなく反映させましょう。
5. フリーランスが経費にできる主な支出
5-1. パソコン・周辺機器・ソフトウェア費
フリーランスの仕事で使うパソコン、モニター、キーボード、マウス、プリンター、外付けストレージなどは、事業に必要な範囲で経費にできます。デザイナーや動画編集者の高性能PC、エンジニアの開発用マシン、ライターの執筆用ノートPCなどは、業務との関連性を説明しやすい支出です。
会計ソフト、デザインソフト、動画編集ソフト、クラウドストレージ、セキュリティソフトなどの利用料も、業務で使っている場合は経費になります。月額課金のサービスは、領収書や請求書をダウンロードして保存しておきましょう。
高額なパソコンや機材は、購入額によって減価償却が必要になることがあります。少額減価償却資産の特例については、令和8年度税制改正大綱で、対象となる減価償却資産の取得価額を従来の30万円未満から40万円未満へ引き上げる方針が示されています。所得税についても同様とされています。財務省 最新の適用時期や要件は、申告年分ごとに確認しましょう。
5-2. 通信費・インターネット料金
仕事で使うスマートフォン料金、インターネット回線、ポケットWi-Fi、クラウドサービス利用料などは、通信費として経費にできる可能性があります。
ただし、プライベートでも使っている場合は、全額を経費にするのではなく、事業利用分だけを按分する必要があります。例えば、自宅のインターネットを仕事と私用の両方で使っている場合、使用時間や使用日数など合理的な基準で事業割合を決めます。
按分割合に絶対的な正解はありませんが、説明できる根拠が必要です。毎年同じ基準で継続して処理することも大切です。
5-3. 家賃・水道光熱費の家事按分
自宅を仕事場として使っている場合、家賃や水道光熱費の一部を経費にできることがあります。これを家事按分といいます。
例えば、住居のうち仕事部屋として使っている面積が全体の20%であれば、家賃の20%を経費にする考え方があります。また、電気代については、仕事で使う時間や部屋数などをもとに按分する方法もあります。
重要なのは、事業に使っている部分と私的利用部分を合理的に区分することです。国税庁も、家事関連費のうち業務遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合、その部分は必要経費になるとしています。国税庁
5-4. 交通費・出張費・打ち合わせ費用
取引先との打ち合わせ、取材、撮影、セミナー参加、出張などのために使った交通費は、事業に関連していれば経費にできます。電車代、バス代、タクシー代、航空券、宿泊費などが該当します。
ICカードを使っている場合は、利用履歴を定期的に保存しておくと便利です。移動目的、訪問先、案件名などをメモしておくと、後で経費性を説明しやすくなります。
カフェや会議室で打ち合わせをした場合の飲食代や会議室利用料も、業務上必要であれば経費になる可能性があります。ただし、私的な飲食や過度な支出は経費として認められにくいため、目的を明確にしておきましょう。
5-5. 書籍代・セミナー代・学習費
業務に必要な知識やスキルを身につけるための書籍、専門誌、オンライン講座、セミナー、研修費なども経費にできる場合があります。例えば、Webマーケターが広告運用の書籍を購入する、エンジニアがプログラミング講座を受講する、デザイナーがデザインツールの講座を受けるといったケースです。
一方、趣味や一般教養に近い支出は経費にしにくい場合があります。業務との関連性を説明できるかが判断のポイントです。
5-6. 広告宣伝費・Webサイト運営費
フリーランスが集客やブランディングのために使う広告費、ポートフォリオサイトの制作費、ドメイン代、サーバー代、名刺代、チラシ制作費などは、広告宣伝費や販売促進費として経費にできることがあります。
SNS広告、検索広告、求人・案件獲得サイトの掲載料なども、仕事を獲得するための支出であれば経費計上の対象になります。支払いの目的が分かるように、広告管理画面の明細や請求書を保存しておきましょう。
5-7. 外注費・業務委託費
自分が受けた仕事の一部を他のフリーランスや事業者に依頼した場合、その支払いは外注費や業務委託費として経費にできます。例えば、Web制作案件でコーディングを外注する、動画制作案件でナレーションを外注する、記事制作で校正を依頼するなどのケースです。
外注費を経費にする場合は、請求書、契約書、納品物、振込記録などを保存しておくことが重要です。また、相手への支払い内容によっては源泉徴収が必要になる場合もあるため、報酬の種類ごとに確認しましょう。
6. フリーランスが青色申告で受けられる控除とメリット
6-1. 青色申告特別控除は最大65万円
青色申告の大きなメリットは、青色申告特別控除です。事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者が、複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内申告を行う場合、原則として最高55万円の控除を受けられます。さらに、e-Taxによる電子申告または一定の電子帳簿保存を行うと、最高65万円の控除を受けられます。国税庁
簡易な記帳の場合でも、最高10万円の控除を受けられる可能性があります。白色申告には青色申告特別控除がないため、継続的にフリーランスとして活動するなら、青色申告のメリットは大きいといえます。
6-2. 赤字を繰り越せる
青色申告には、赤字を翌年以降に繰り越せるメリットがあります。フリーランスは、独立初年度に機材購入や広告費がかさみ、赤字になることがあります。また、景気や取引先の都合で売上が大きく変動することもあります。
赤字を繰り越せると、翌年以降に黒字が出たとき、その黒字と過去の赤字を相殺できるため、税負担を抑えられる可能性があります。収入が不安定になりやすいフリーランスにとって、赤字の繰越しは重要な制度です。
6-3. 家族への給与を経費にできる場合がある
青色申告者は、一定の要件を満たすことで、生計を一にする配偶者や親族に支払った給与を青色事業専従者給与として必要経費にできる場合があります。国税庁は、青色申告者と生計を一にする配偶者や親族のうち、15歳以上で事業に専ら従事している人に支払った給与について、事前届出の範囲内で、労務の対価として適正な金額であれば必要経費に算入できると説明しています。国税庁
ただし、青色事業専従者として給与を受ける人は、同一生計配偶者や扶養親族にはなれません。給与を経費にできるメリットだけでなく、配偶者控除や扶養控除との関係も含めて判断する必要があります。
6-4. 30万円未満の資産を一括経費にできる場合がある
従来、青色申告を行う中小企業者等は、一定の要件を満たすことで、取得価額30万円未満の減価償却資産を年間合計300万円まで一括で必要経費にできる特例がありました。パソコン、カメラ、業務用機材などを購入するフリーランスにとって、実務上よく使われる制度です。
ただし、令和8年度税制改正大綱では、対象となる減価償却資産の取得価額を40万円未満へ引き上げる方針が示されています。財務省 税制改正によって金額や期限、対象者の要件が変わることがあるため、申告する年分の最新情報を確認しましょう。
6-5. 青色申告を始めるために必要な手続き
青色申告を始めるには、原則として「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。提出期限は、青色申告をしようとする年の3月15日までです。その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合は、原則として事業開始の日から2か月以内です。国税庁
青色申告は、申請書を出しただけで完了するものではありません。帳簿をつけ、領収書や請求書を保存し、期限内に確定申告する必要があります。会計ソフトを使えば複式簿記の負担は軽くなるため、開業初期から記帳の習慣をつけておくとよいでしょう。
7. フリーランスでも給与所得控除が関係するケース
7-1. 会社員が副業でフリーランス収入を得ている場合
会社員が副業でフリーランス収入を得ている場合、会社からの給与には給与所得控除が適用され、副業収入には必要経費が適用されます。
年末調整済みの会社員でも、給与所得以外の副収入による所得が20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要です。国税庁も、年末調整が済んでいる給与所得者であっても、給与所得以外の副収入等によって20万円を超える所得を得ている場合には、一定の場合を除き確定申告が必要と説明しています。国税庁
ここでいう20万円は「収入」ではなく「所得」です。副業収入から必要経費を差し引いた後の金額で判断します。
7-2. アルバイト収入と業務委託収入がある場合
アルバイト収入と業務委託収入がある場合は、それぞれ所得区分を分けて考えます。アルバイト先から給与として支払われる収入は給与所得です。そのため、給与所得控除が適用されます。
一方、業務委託契約に基づく報酬は、原則として事業所得または雑所得です。この部分には給与所得控除は使えず、必要経費を差し引いて所得を計算します。
例えば、カフェでアルバイトをしながら、個人でイラスト制作を請け負っている場合、カフェの給与には給与所得控除、イラスト制作の報酬には必要経費というように分けて申告します。
7-3. 法人成りして自分に役員報酬を支払う場合
フリーランスとして事業が拡大し、法人を設立することを「法人成り」といいます。法人成り後、自分の会社から役員報酬を受け取る場合、その役員報酬は給与所得に分類されます。国税庁
この場合、個人として受け取る役員報酬には給与所得控除が適用されます。ただし、法人側では役員報酬の金額や支給時期について税務上のルールがあります。個人事業主のときのように、自由に事業主の生活費を引き出す感覚とは異なります。
法人成りは、給与所得控除だけで判断するものではありません。法人税、社会保険料、消費税、事務負担、役員報酬の設計などを総合的に検討する必要があります。
7-4. 業務委託なのに実態が雇用に近い場合の注意点
契約書上は業務委託であっても、実態として勤務時間や勤務場所を厳しく指定され、会社の指揮命令を受け、仕事を断る自由がほとんどないような場合は、雇用に近い働き方と判断される可能性があります。
フリーランス・事業者間取引適正化等法は、2024年11月1日に施行され、フリーランスと発注事業者の取引適正化や就業環境の整備を目的としています。厚生労働省 ただし、同法は税務上の所得区分を直接決めるものではありません。
税務上は、契約名だけでなく、実際の働き方や報酬の支払われ方も重要です。業務委託なのか雇用なのか判断が難しい場合は、税務署や税理士などの専門家に相談しましょう。
8. 給与所得控除と似ている「家内労働者等の必要経費の特例」
8-1. 家内労働者等の必要経費の特例とは
フリーランスの中には、給与所得控除に似た制度として「家内労働者等の必要経費の特例」を使える可能性がある人もいます。
この特例は、家内労働者等に該当する人について、実際にかかった経費が65万円未満であっても、所得金額の計算上、必要経費として65万円まで認められる制度です。令和2年分から令和6年分までは55万円でしたが、令和7年分以後は65万円とされています。国税庁
給与所得控除と似ていますが、給与所得控除そのものではありません。あくまで、事業所得または雑所得の計算における必要経費の特例です。
8-2. フリーランスでも対象になる可能性がある人
家内労働者等には、家内労働法に規定する家内労働者のほか、外交員、集金人、電力量計の検針人、特定の者に対して継続的に人的役務を提供する人などが含まれます。国税庁
例えば、特定の会社から継続的に仕事を受け、人的役務を提供している人は、要件を満たせば対象になる可能性があります。内職、外交員、特定企業から継続的に業務を受ける一部の個人事業者などは確認する価値があります。
ただし、すべてのフリーランスが対象になるわけではありません。Webライター、デザイナー、エンジニアなどでも、取引形態や仕事内容によって判断が変わります。
8-3. 対象外になりやすいケース
複数の取引先を持ち、自分で価格設定や営業活動を行い、事業として独立性が高いフリーランスは、家内労働者等の必要経費の特例の対象外になりやすいと考えられます。
また、実際の必要経費が65万円以上ある場合は、通常どおり実際の経費を計上することになります。この特例は、経費が少ない人に対して一定額まで必要経費を認める仕組みであり、実際の経費に加えて65万円を上乗せできる制度ではありません。
給与収入がある場合にも注意が必要です。国税庁は、給与収入が65万円以上ある場合、この特例は受けられないと説明しています。国税庁
8-4. 給与所得控除との違い
給与所得控除は、給与所得者に適用される控除です。一方、家内労働者等の必要経費の特例は、一定の家内労働者等に該当する人の事業所得または雑所得の計算で使う特例です。
両者は似ていますが、対象者も所得区分も異なります。フリーランスが「給与所得控除は使えないが、家内労働者等の特例なら使えるかもしれない」と考える場合は、自分の働き方が要件に当てはまるか確認する必要があります。
9. フリーランスが控除を活用するときの注意点
9-1. 経費と私的支出を混同しない
フリーランスが節税を考えるうえで最も注意すべきなのは、経費と私的支出を混同しないことです。事業に関係のない食事、旅行、趣味の買い物、家族の支出などは経費にできません。
仕事にも私生活にも使う支出は、家事按分が必要です。例えば、自宅兼事務所の家賃、スマートフォン料金、インターネット料金、電気代などは、事業利用分だけを経費にします。
経費にできるかどうか迷ったときは、「売上を得るために必要な支出か」「事業との関連性を説明できるか」「証拠書類が残っているか」を基準に考えましょう。
9-2. 領収書・請求書・帳簿を保存する
フリーランスは、収入や経費を帳簿に記録し、領収書や請求書などを保存する必要があります。青色申告では、帳簿書類の保存も重要な要件です。国税庁は、青色申告者の帳簿や書類について、帳簿は原則7年間、請求書・見積書・納品書など一部書類は5年間保存するものがあると説明しています。国税庁
紙の領収書だけでなく、クレジットカード明細、電子領収書、メールで届く請求書、クラウドサービスの利用明細なども保存対象になります。電子帳簿保存法のルールにも注意しながら、毎月整理する習慣をつけましょう。
9-3. 白色申告と青色申告で控除額が変わる
白色申告でも必要経費は計上できますが、青色申告特別控除は使えません。青色申告なら、要件に応じて最高65万円、55万円、または10万円の青色申告特別控除を受けられます。国税庁
売上がそれほど大きくないうちは白色申告でもよいと考える人もいますが、青色申告にしておくことで、控除や赤字の繰越しなどのメリットを受けられる可能性があります。会計ソフトを使えば記帳の負担は以前より軽くなっているため、早めに青色申告へ移行するのがおすすめです。
9-4. 節税だけを目的に不要な支出を増やさない
経費を増やせば所得は下がり、税額も下がります。しかし、経費として使ったお金は手元から出ていきます。税金を減らすためだけに不要なものを購入すると、結果的に資金繰りが悪化することがあります。
例えば、税率が20%の人が10万円の不要な支出をしても、税負担が10万円減るわけではありません。減る税金は一部であり、残りは自己負担です。
節税のために支出するのではなく、事業に必要な支出を漏れなく経費にすることが重要です。売上につながる投資かどうかを考えながら判断しましょう。
9-5. 所得税だけでなく住民税・国民健康保険料も考慮する
フリーランスの税負担を考えるときは、所得税だけでなく住民税や国民健康保険料も考慮する必要があります。所得が増えると、翌年度の住民税や国民健康保険料に影響することがあります。
青色申告特別控除や必要経費の計上によって所得が下がれば、所得税だけでなく住民税や国民健康保険料にも影響する可能性があります。ただし、国民健康保険料の計算方法は自治体によって異なります。
手取りを正しく把握するには、売上から経費、税金、社会保険料を差し引いた金額で考えることが大切です。
10. フリーランスの給与所得控除に関するよくある質問
10-1. フリーランスは給与所得控除と経費を両方使える?
フリーランスの業務委託収入には、原則として給与所得控除は使えません。その代わり、事業に必要な支出を必要経費として計上します。
ただし、会社員として給与を受け取りながら副業でフリーランス収入を得ている場合は、給与部分には給与所得控除、副業部分には必要経費を使います。つまり、収入の種類が異なれば、同じ人でも給与所得控除と経費計上の両方が関係することがあります。
10-2. 業務委託収入でも給与所得控除を受けられる?
業務委託収入は、原則として給与所得ではないため、給与所得控除は受けられません。業務委託報酬は、事業所得または雑所得として処理し、必要経費を差し引いて所得を計算します。
ただし、契約書の名称が業務委託であっても、実態として雇用に近い場合は判断が変わる可能性があります。勤務実態、指揮命令の有無、報酬の支払われ方などを総合的に確認する必要があります。
10-3. 副業フリーランスは確定申告が必要?
会社員で年末調整が済んでいても、副業による所得が20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要です。国税庁
ここでいう所得は、副業収入から必要経費を差し引いた金額です。例えば、副業収入が40万円、必要経費が15万円なら、副業所得は25万円となり、20万円を超えます。
なお、所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告が必要になることがあります。副業収入がある場合は、自治体のルールも確認しましょう。
10-4. 青色申告特別控除と給与所得控除は併用できる?
給与所得と事業所得の両方がある人は、それぞれの所得に対して制度を使える場合があります。会社からの給与には給与所得控除を適用し、事業所得については要件を満たせば青色申告特別控除を適用できます。
例えば、会社員として給与を受け取りながら、副業を事業所得として青色申告している場合、給与所得控除と青色申告特別控除がどちらも関係します。ただし、青色申告特別控除は、事業所得、不動産所得、山林所得など青色申告の対象となる所得に関する制度です。国税庁
10-5. フリーランスが最初に取り組むべき節税対策は?
フリーランスが最初に取り組むべき節税対策は、必要経費を正しく記録することです。売上、経費、利益を把握できなければ、どの控除を使うべきか判断できません。
次に、継続的に事業を行うなら青色申告を検討しましょう。最大65万円の青色申告特別控除は、給与所得控除が使えないフリーランスにとって大きな節税効果があります。
さらに、国民年金や国民健康保険料の社会保険料控除、小規模企業共済やiDeCoの小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、医療費控除など、自分に関係する所得控除を確認しましょう。節税は一度に大きなことをするより、日々の記帳と証拠書類の保存を積み重ねることが重要です。
まとめ
フリーランスに給与所得控除は、原則として使えません。給与所得控除は会社員などの給与所得者に適用される控除であり、フリーランスの業務委託収入は通常、事業所得または雑所得として扱われるためです。
ただし、フリーランスが節税できないわけではありません。事業に必要な支出を必要経費として正しく計上し、要件を満たせば青色申告特別控除を活用できます。さらに、基礎控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、医療費控除、扶養控除なども確認することで、税負担を抑えられる可能性があります。
会社員の副業フリーランス、アルバイトと業務委託の掛け持ち、法人成りして役員報酬を受け取るケースなどでは、給与所得控除が関係する場面もあります。大切なのは、収入ごとに所得区分を正しく整理することです。
フリーランスの節税は、「給与所得控除が使えないから損」と考えるのではなく、「必要経費と各種控除を正しく使う」ことから始まります。日々の帳簿づけ、領収書の保存、青色申告の活用を通じて、無理なく税金対策を進めていきましょう。

