フリーランスは労働者として守られる?働く前に知るべき権利・法律・トラブル対策
はじめに
フリーランスは、一般に会社と雇用契約を結ばず、業務委託契約などに基づいて仕事をする事業者です。そのため、「会社員ではないから労働法では一切守られない」と考えられがちです。
しかし、契約書に「業務委託」「請負」「個人事業主」と書かれていても、発注者の指示を受け、勤務時間や場所を拘束されて働いている場合は、労働基準法上の「労働者」と判断される可能性があります。厚生労働省も、労働者に当たるかどうかは契約の名称ではなく、実際の働き方を踏まえて総合的に判断するとしています。mhlw.go.jp+1
また、労働者に該当しないフリーランスにも、2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法、いわゆるフリーランス新法による保護があります。公正取引委員会+1
この記事では、フリーランスと労働者の違い、労働者性の判断基準、関係する法律、契約トラブルへの対策を解説します。個別の事案では、契約書だけでなく、指示の内容や勤務実態、報酬の決まり方などが重要になるため、問題が生じた場合は専門機関へ相談しましょう。
1. フリーランスは「労働者」なのか?まず押さえる基本
1-1. フリーランスと会社員・アルバイトの違い
会社員やアルバイトは、通常、勤務先と労働契約を結び、使用者の指揮命令を受けて働きます。勤務時間や業務内容を会社が決め、その労働の対価として賃金を受け取る関係です。
一方、フリーランスは、発注者から特定の業務を請け負い、自ら仕事の方法や時間を決めて業務を遂行する独立した事業者と位置づけられます。必要なパソコンや機材を自分で用意し、経費や赤字のリスクを負うことも、事業者としての特徴です。
ただし、現実には両者の境界が明確でないケースがあります。形式上はフリーランスでも、会社員と同じように毎日出勤し、上司の具体的な指示に従って働いている場合などです。
1-2. 業務委託契約でも労働者と判断されるケースがある
労働基準法第9条では、労働者を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。
そのため、業務委託契約を結んでいても、実質的に発注者の指揮監督下で労務を提供し、その対価として報酬を受け取っていれば、労働者と認められる可能性があります。
例えば、次のような働き方です。
発注者が毎日の始業時刻と終業時刻を決めている
業務の進め方について細かな指示を受けている
仕事の依頼を事実上断れない
本人以外が仕事を行うことを禁止されている
成果物ではなく、勤務時間に応じて報酬が支払われる
ほかの取引先と仕事をすることを制限されている
いずれか一つに該当しただけで、直ちに労働者と決まるわけではありません。複数の事情を総合して判断されます。
1-3. 「契約名」ではなく働き方の実態で判断される
発注者から「業務委託契約だから労働基準法は適用されない」と説明されても、それだけで結論が決まるわけではありません。
労働者性の判断では、契約書の名称よりも、実際にどのような指示を受け、どの程度拘束されていたかが重視されます。請負契約、準委任契約、代理店契約など、どのような名称が使われていても同様です。mhlw.go.jp+1
契約書に「受託者は独立した事業者であり、労働者ではない」と記載されていても、実態が使用者の指揮監督下にある場合、その記載だけで労働者性が否定されるとは限りません。
1-4. フリーランスが労働者性を確認すべき理由
労働者と認められるかどうかによって、受けられる法的保護が大きく変わります。
労働者に該当すれば、労働時間、休憩、休日、最低賃金、時間外労働の割増賃金、解雇、労災保険などに関する労働法令が適用される可能性があります。
そのため、「フリーランスだから仕方がない」と長時間労働や未払い報酬を受け入れる前に、自分の働き方が本当に独立した事業者としてのものなのかを確認することが重要です。
2. フリーランスが労働者として認められる判断基準
2-1. 仕事の進め方や時間を発注者に指示されているか
労働者性を判断する中心的な要素は、発注者の「指揮監督下」で働いているかどうかです。
仕事の目的や納期だけが指定され、具体的な方法を自分で決められる場合は、事業者性を示す事情になります。一方、作業の順番、使用するツール、顧客への対応方法、報告のタイミングまで細かく指示され、従わなければ注意や処分を受ける場合は、労働者性を肯定する事情になり得ます。
チャットやメールで日常的に指示を受けている場合は、その履歴が重要な証拠になります。
2-2. 勤務場所・稼働時間を指定されているか
発注者から出勤場所や勤務時間を指定されている場合、拘束性があると判断されやすくなります。
ただし、セキュリティ上の理由で作業場所が指定される場合や、会議の時間だけが決められている場合など、業務の性質上必要な制約もあります。そのため、場所や時間の指定だけでなく、拘束の程度や理由も確認されます。
毎日決められた時刻に出勤し、遅刻や欠勤について許可を求める必要がある場合は、会社員に近い働き方といえるでしょう。
2-3. 仕事を断る自由があるか
独立したフリーランスであれば、原則として、依頼された案件を受けるかどうかを自分で判断できます。
形式上は断れることになっていても、「断ると次回から仕事を発注しない」「評価を下げる」と言われるなど、実際には拒否できない場合があります。このような状況では、仕事の依頼に対する諾否の自由がないと評価される可能性があります。
反対に、案件ごとに条件を検討し、自由に受注・辞退している場合は、事業者としての独立性を示す事情になります。
2-4. 報酬が成果ではなく時間や労務の対価になっているか
報酬の計算方法も重要な判断材料です。
完成した成果物や業務の完了に対して報酬が支払われる場合は、請負や業務委託としての性格が強くなります。一方、「時給」「日給」「月額固定」など、働いた時間に応じて報酬が決まり、欠勤や遅刻によって減額される場合は、賃金に近い性格を持ちます。
もっとも、フリーランスでも時間単価で契約することはあるため、報酬形態だけでなく、指揮命令や拘束の有無と併せて判断されます。
2-5. 事業者としての独立性があるか
次のような事情は、独立した事業者であることを示す要素になります。
自分で仕事の価格や条件を交渉している
複数の取引先から仕事を受注している
パソコン、機材、車両などを自分で用意している
外注や代替者の利用が認められている
経費や損失を自分で負担している
作業方法やスケジュールを自分で決めている
成果によって利益が増減する可能性がある
反対に、報酬額を一方的に決められ、設備もすべて発注者から提供され、ほかの仕事を禁止されている場合は、独立性が弱いと考えられます。
2-6. 偽装フリーランス・偽装業務委託に注意すべきケース
実質的には労働者として働かせながら、社会保険料や残業代などの負担を避けるために業務委託契約を利用する働かせ方は、「偽装フリーランス」「偽装業務委託」と呼ばれることがあります。
注意すべきなのは、次のようなケースです。
採用面接を受け、社内の従業員と同じ仕事をしている
シフトを会社が決定している
上司の許可なく休めない
就業規則に近い社内ルールの適用を受ける
業務命令を拒否すると懲戒に近い扱いを受ける
契約終了を「退職」「解雇」と説明される
毎月同じ金額が給与のように支払われる
このような事情が複数ある場合は、契約書、勤務記録、指示の履歴を保存したうえで、労働基準監督署などへ相談することを検討しましょう。
3. フリーランスが労働者と認められた場合に受けられる保護
3-1. 労働基準法による労働時間・休憩・休日の保護
労働者と認められた場合、原則として、1日8時間、1週間40時間という法定労働時間のルールが適用されます。
労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩が必要です。また、毎週少なくとも1日の休日、または4週間を通じて4日以上の休日を与えることが原則とされています。mhlw.go.jp
発注者の指示を待つために待機していた時間も、自由に利用できない状態であれば、労働時間と評価されることがあります。
3-2. 最低賃金や残業代の対象になる可能性
労働者であれば、使用者は最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。mhlw.go.jp
業務委託報酬を実際の労働時間で割った金額が最低賃金を下回っている場合、労働者性が認められれば、差額を請求できる可能性があります。
また、法定労働時間を超える労働や法定休日の労働、深夜労働については、割増賃金の対象になることがあります。未払い賃金には請求期限があるため、タイムカード、入退館記録、パソコンのログ、チャットの送信時刻などを早めに確保することが重要です。
3-3. 不当な契約解除・解雇からの保護
業務委託契約の終了と説明されていても、労働者性が認められれば、その終了は実質的に解雇と判断される可能性があります。
労働契約法上、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない解雇は無効です。また、原則として、解雇する場合は30日前に予告するか、不足する日数分の解雇予告手当を支払う必要があります。mhlw.go.jp+1
期間の定めがある労働契約では、契約期間中の解雇が無期契約より厳しく制限されます。
3-4. 労災保険が適用される可能性
労働者として業務中や通勤中に負傷した場合、労災保険による治療費、休業補償、障害補償などの対象になる可能性があります。
会社が労災保険の加入手続きをしていなかったとしても、それだけで労働者が直ちに補償を受けられなくなるわけではありません。仕事が原因のけがや病気が発生した場合は、労働基準監督署へ相談しましょう。
なお、労働者に該当しないフリーランスについても、2024年11月1日から、一定のフリーランスが労災保険へ任意で特別加入できる制度が始まっています。mhlw.go.jp+1
3-5. ハラスメントや安全配慮義務に関する保護
労働者に該当すれば、事業主に対する職場のパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産などに関するハラスメント防止措置の対象となる可能性があります。
また、使用者には、労働者が生命や身体の安全を確保しながら働けるよう配慮する義務があります。長時間労働、暴力、危険な作業、深刻な精神的負担を放置していた場合は、安全配慮義務違反が問題になることがあります。
4. 労働者ではないフリーランスにも関係する法律
4-1. フリーランス新法で守られる取引上の権利
フリーランス新法の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。
主に、従業員を使用しない個人や、代表者以外に役員がおらず従業員も使用しない法人が、事業者から業務委託を受ける取引を対象とします。発注者の規模や従業員の使用状況、委託期間によって、適用される義務が異なります。
フリーランス新法は、フリーランスを労働者として扱う法律ではありません。あくまで事業者間取引の適正化と、就業環境の整備を目的とした法律です。
4-2. 発注条件の明示義務
発注者は、フリーランスへ業務を委託した場合、原則として直ちに、書面またはメールなどの電磁的方法で取引条件を明示しなければなりません。
明示の対象には、一般に次のような事項が含まれます。
発注者と受注者の名称
業務委託をした日
業務や成果物の内容
納品日、役務提供日、業務を行う期間
納品場所や業務場所
検査を行う場合の完了日
報酬額
支払期日
現金以外で支払う場合の内容
口頭だけで仕事を始めると、後から業務範囲や報酬をめぐる争いが起こりやすくなります。条件が届かない場合は、作業開始前にメールなどで明示を求めましょう。
4-3. 報酬の支払期日と支払い遅延への規制
一定の発注事業者は、フリーランスから成果物を受け取った日や役務の提供を受けた日から、原則として60日以内のできる限り短い期間に支払期日を設定し、その期日までに報酬を支払う必要があります。公正取引委員会+1
「取引先から入金されていない」「社内の支払い処理が遅れている」といった発注者側の事情だけで、定められた支払期日を自由に延期できるわけではありません。
請求書を提出していないことを理由に支払いを拒否されるケースもありますが、契約上の請求書提出義務と、法律上の報酬支払義務は分けて確認する必要があります。
4-4. 一方的な契約変更・買いたたき・不当なやり直しの禁止
1か月以上の業務委託については、一定の発注事業者に対し、次の7つの行為が禁止されています。
フリーランスに責任がないのに成果物の受領を拒否する
フリーランスに責任がないのに報酬を減額する
フリーランスに責任がないのに受領後の成果物を返品する
通常支払われる対価と比べて著しく低い報酬を不当に定める
正当な理由なく指定商品やサービスの購入・利用を強制する
金銭、サービスなどの経済上の利益を不当に提供させる
フリーランスに責任がないのに内容変更ややり直しをさせ、費用を負担しない
すべての契約変更が禁止されるわけではありません。しかし、納品後に仕様を変更し、追加料金を支払わず大幅な修正を求める行為などは、不当なやり直しとして問題になる可能性があります。
4-5. ハラスメント対策や育児・介護への配慮
一定の発注事業者には、フリーランスからハラスメントの相談を受けられる体制の整備や、相談したことを理由とする不利益な取り扱いを行わないための措置が求められます。
また、6か月以上継続する業務委託では、フリーランスから申出があった場合、育児や介護と業務を両立できるよう必要な配慮を行う義務があります。
同じく6か月以上の業務委託を中途解除したり、更新しなかったりする場合は、原則として少なくとも30日前までの予告が必要です。フリーランスが理由の開示を求めた場合には、発注者は原則として理由を明らかにする必要があります。都道府県労働局一覧+1
4-6. 下請法・独占禁止法・民法との関係
フリーランスとの取引には、フリーランス新法だけでなく、取引内容や当事者の規模に応じて、取適法、独占禁止法、民法などが関係します。
従来「下請法」と呼ばれていた法律は、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法」、通称「取適法」に名称が変わり、適用対象や禁止行為も拡充されました。公正取引委員会+1
発注者が優越的な立場を利用して、不当に低い報酬や無償作業を押し付けた場合は、独占禁止法上の優越的地位の濫用が問題になることがあります。
また、契約どおりの報酬を請求する権利、債務不履行による損害賠償、契約解除などの基本的なルールには民法が関係します。
5. フリーランスが働く前に確認すべき契約内容
5-1. 業務範囲・納品物・成果物の定義
契約書には、「何をすれば業務完了になるのか」を具体的に記載します。
「Webサイト制作一式」「記事作成業務」などの曖昧な表現だけでは、追加作業をどこまで断れるか判断できません。ページ数、記事本数、文字数、対応する機能、データ形式、納品方法などを明確にしましょう。
準委任契約の場合は、成果物の完成を約束するのか、一定の業務を遂行することを目的とするのかも確認が必要です。
5-2. 報酬額・支払日・支払方法
報酬については、税込・税抜の区別、消費税、源泉徴収、振込手数料の負担まで確認します。
支払日は、「検収完了後に支払う」だけでなく、「毎月末締め翌月末払い」のように具体的に定めることが重要です。検収期限が決められていないと、発注者が検収を先延ばしし、支払いも遅れるおそれがあります。
5-3. 修正回数・追加作業・キャンセル料
修正対応は、トラブルが発生しやすい項目です。
契約では、次の点を決めておきましょう。
無料修正の回数
無料修正に含まれる範囲
仕様変更を追加作業とする基準
追加料金の計算方法
発注後にキャンセルされた場合の料金
作業途中で終了した場合の精算方法
「軽微な修正は無制限」といった条項は、解釈が広がりやすいため注意が必要です。
5-4. 契約期間・更新・中途解約の条件
契約の開始日と終了日、自動更新の有無、更新を拒否する場合の通知期限を確認します。
中途解約については、発注者だけが自由に解除できる契約になっていないか、解除時に完了済みの作業分が支払われるかを確認しましょう。
長期案件では、案件終了により収入が突然途絶えるリスクがあるため、事前予告期間を設けることが重要です。
5-5. 著作権・知的財産権・秘密保持
制作物の著作権がいつ、どの範囲で発注者に移転するのかを確認します。
著作権譲渡条項がある場合は、報酬の支払い前に権利が移転するのか、著作権法第27条・第28条の権利が含まれるのか、制作実績として公開できるのかなどが重要です。
秘密保持条項では、秘密情報の範囲が過度に広くないか、秘密保持義務の期間、違反時の責任を確認しましょう。
5-6. 損害賠償・責任範囲の確認ポイント
「受注者は発注者に生じた一切の損害を賠償する」といった無制限の損害賠償条項には注意が必要です。
損害賠償の上限を報酬額または一定額にする、間接損害や特別損害を除外する、故意・重大な過失がある場合を別扱いにするなど、リスクに応じて交渉しましょう。
発注者が用意した資料や指示に問題があった場合まで、フリーランスが全面的に責任を負う内容になっていないかも確認が必要です。
6. フリーランスに多い労働・契約トラブルと対策
6-1. 報酬未払い・支払い遅延
報酬が支払われない場合は、まず契約書、発注書、納品記録、請求書、支払期日を確認します。
そのうえで、メールなど記録が残る方法で、次の内容を伝えます。
対象となる業務
請求金額
本来の支払期日
新たに設定する支払期限
振込先
期限までに支払いがない場合の対応
電話で連絡した場合も、通話後に「本日の電話で確認した内容」としてメールを送っておきましょう。
6-2. 契約外の追加作業を無償で求められる
追加作業を依頼されたら、すぐに着手せず、当初の契約範囲に含まれるかを確認します。
契約外であれば、「追加費用は○円」「納期は○日延長」と条件を提示し、書面やメールで合意してから作業を始めます。
発注者から「これくらいはサービスしてほしい」と求められても、少額の無償作業が積み重なると大きな負担になります。継続的な無償対応は、買いたたきや不当な経済上の利益の提供要請などとして問題になる可能性があります。
6-3. 一方的な契約解除・案件打ち切り
案件を突然打ち切られた場合は、契約期間、中途解約条項、予告期間、解除理由を確認します。
作業済みの部分がある場合は、進捗、作成物、稼働時間を整理し、完了済み業務に対応する報酬を請求します。
6か月以上の業務委託であれば、フリーランス新法による30日前の予告や理由開示が必要となる可能性があります。ただし、災害などの例外や、契約関係によって適用条件が異なるため、個別に確認が必要です。
6-4. 長時間拘束や常駐を求められる
常駐型の業務委託契約そのものが、直ちに違法になるわけではありません。
しかし、毎日決められた時間に出勤し、業務の進め方を細かく指示され、残業や休日出勤も命じられている場合は、労働者性を検討すべきです。
始業・終業時刻、休憩時間、休日の指示、残業依頼などを記録し、労働基準監督署の相談窓口へ持参できるようにしておきましょう。
6-5. パワハラ・セクハラ・カスハラ
暴言、人格否定、性的な言動、交際の要求、仕事を与えないという脅し、過度なクレームなどを受けた場合は、日時、場所、相手、発言内容、周囲にいた人を記録します。
録音、メール、チャット、診断書なども証拠になり得ます。ただし、証拠を集めるために危険な状況へ戻る必要はありません。身の危険がある場合は、安全確保を優先してください。
フリーランス新法のハラスメント対策が適用されるケースのほか、行為の内容によっては民法上の不法行為や刑事上の問題になることもあります。顧客や第三者によるカスタマーハラスメントは、誰がどのような立場で行ったかによって適用されるルールが異なります。
6-6. トラブルを防ぐための記録・証拠の残し方
トラブル対策では、口頭のやり取りを記録に変えることが重要です。
保存しておきたい資料には、次のようなものがあります。
契約書、発注書、見積書
業務内容や報酬を確認したメール
チャットや業務管理ツールの履歴
成果物と納品記録
修正指示と対応履歴
請求書と送付記録
入金履歴
始業・終業時刻や稼働時間
契約解除や減額を通知された記録
ハラスメントの録音、メモ、診断書
アカウントを停止されると履歴を確認できなくなることがあります。会社のシステム内にしか残っていない資料は、規約や秘密保持義務に注意しながら、必要な範囲で早めに確保しましょう。
7. フリーランスがトラブルに遭ったときの相談先
7-1. 労働者性がある場合は労働基準監督署に相談
実態として労働者に近く、残業代、最低賃金、長時間労働、労災などの問題がある場合は、勤務場所を管轄する労働基準監督署へ相談します。
全国の労働基準監督署には、労働者性に疑義があるフリーランスから、労働基準法などの違反について相談を受け付ける窓口が設けられています。mhlw.go.jp
契約解除の有効性、損害賠償、慰謝料など、労働基準監督署だけでは解決できない問題については、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや弁護士への相談も検討します。
7-2. フリーランス新法に関する相談窓口
取引条件の不明示、支払い遅延、報酬減額、買いたたきなど、フリーランス新法違反が疑われる場合は、公正取引委員会などの申出窓口を利用できます。
ハラスメント対策、育児・介護への配慮、中途解除の事前予告など、就業環境の整備に関する問題は、都道府県労働局の雇用環境・均等部または雇用環境・均等室が主な窓口です。
違反の申出をしたことを理由として、発注者が契約解除などの不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
7-3. 弁護士・法テラス・労働組合への相談
契約や仕事上のトラブルについては、厚生労働省委託事業の「フリーランス・トラブル110番」で、弁護士に無料・匿名で相談できます。和解あっせんも無料で利用できます。フリーランス・トラブル110番〖厚生労働省委託事業・第二東京弁護士会運営〗+1
収入や資産が一定基準以下の場合は、法テラスの民事法律扶助を利用できる可能性があります。
また、労働組合には、会社単位の組合だけでなく、個人でも加入できる合同労組やユニオンがあります。労働基準法上の労働者性が明確でなくても、労働組合法上の労働者に当たるとして、団体交渉を求められる場合があります。
7-4. 発注者へ請求・交渉する前に準備すべき資料
発注者へ請求する前に、事実関係を時系列に整理します。
最低限、次の内容をまとめましょう。
契約を締結した日
業務内容と報酬
作業開始日と納品日
発注者から受けた指示
追加作業の内容
請求日と支払期日
未払いまたは減額された金額
これまでの連絡内容
自分が求める解決方法
感情的な表現を避け、「いつ、誰が、何を言い、何が起きたか」を資料に基づいて伝えると、相談や交渉を進めやすくなります。
7-5. 内容証明・少額訴訟・民事調停を検討するケース
通常のメールや電話で支払いがない場合は、内容証明郵便による請求を検討します。内容証明は、いつ、どのような内容の文書を送ったかを証明する方法です。ただし、請求内容が正しいことや、相手が文書に従うことまで保証するものではありません。
60万円以下の金銭請求で、事実関係が比較的単純な場合は、簡易裁判所の少額訴訟を利用できる可能性があります。少額訴訟は、原則として1回の審理で解決を図る手続きです。最高裁判所
話し合いによる解決が見込める場合は、非公開で進められる民事調停も選択肢になります。請求額が大きい場合、争点が複雑な場合、労働者性を含めて争う場合は、弁護士へ相談して手続きを選びましょう。
8. フリーランスとして安全に働くための実践チェックリスト
8-1. 契約前に確認するチェックリスト
契約前には、少なくとも次の事項を確認します。
業務内容と完成条件が明確か
報酬額、支払日、支払方法が書面化されているか
検収期限が決められているか
修正回数と追加料金が決められているか
キャンセル時の精算方法があるか
契約期間と中途解約条件が明確か
著作権の移転時期と範囲が適切か
損害賠償責任が過大ではないか
競業避止や専属義務が広すぎないか
秘密保持義務の範囲と期間が適切か
不明点が残っている場合は、作業開始前に質問し、回答をメールなどで残しましょう。
8-2. 稼働中に残すべき証拠・連絡履歴
稼働中は、契約書だけでなく、実際の業務内容を示す記録を残します。
特に、日々の始業・終業時刻、作業内容、発注者からの指示、修正対応、納品記録は重要です。契約書と実態が異なる場合、日常的な記録が労働者性や追加報酬を判断する材料になります。
口頭で条件変更を求められた場合は、「本日の打ち合わせでは、納期を○日に変更し、追加報酬を○円とすることで合意したと認識しています」などとメールで確認しましょう。
8-3. 労働者性が疑われる働き方のチェック項目
次の項目に複数該当する場合は、フリーランスではなく労働者としての実態がないか確認しましょう。
出勤日や勤務時間を発注者が決めている
遅刻、早退、休暇に許可が必要である
業務依頼を断ることが難しい
作業手順について具体的な指示を受ける
発注者の指示に従わないと制裁を受ける
本人以外が仕事を行うことを禁止されている
報酬が時間単位で計算されている
欠勤すると報酬が減額される
仕事に必要な設備を発注者が用意している
ほかの取引先との仕事を制限されている
社員とほぼ同じ業務を同じ場所で行っている
長期間、一社からの収入に依存している
チェック数だけで法的な結論が出るわけではありませんが、相談すべきかを判断する目安になります。
8-4. トラブル発生時に取るべき初動
トラブルが起きたときは、次の順番で対応します。
契約書、発注書、連絡履歴を保存する
発生した出来事を日時順に記録する
請求額や被害内容を整理する
発注者へ書面やメールで確認・請求する
追加作業や不利な合意を安易に受け入れない
労働基準監督署、フリーランス・トラブル110番、公正取引委員会、弁護士などへ相談する
心身や身体に危険がある場合は仕事より安全確保を優先する
契約を解除されたり、社内アカウントを停止されたりすると証拠を取得できなくなることがあります。問題の兆候が出た段階で、必要な記録を確保することが大切です。
まとめ
フリーランスは、原則として独立した事業者であり、会社員と同じ労働法上の保護が自動的に適用されるわけではありません。
しかし、発注者から仕事の進め方を細かく指示され、勤務時間や場所を拘束され、仕事を断る自由がないなど、実態として使用者の指揮監督下で働いている場合は、労働者と認められる可能性があります。
労働者性は、業務委託契約という名称ではなく、実際の働き方によって判断されます。労働者に該当すれば、労働時間、最低賃金、残業代、解雇、労災保険などに関する保護を受けられる可能性があります。
労働者に該当しない場合でも、フリーランス新法、取適法、独占禁止法、民法などによって、条件明示、報酬の支払い、不当な減額ややり直し、ハラスメント対策などの権利が守られます。
安全に働くためには、契約条件を書面にし、業務指示や稼働時間、納品、請求の記録を残すことが重要です。「フリーランスだから守られない」と決めつけず、働き方や取引に疑問を感じた段階で、適切な相談窓口を利用しましょう。

