フリーランスの源泉徴収税とは?対象報酬・計算方法・確定申告で損しない対処法を徹底解説
はじめに
フリーランスとして仕事をしていると、請求額より少ない金額が振り込まれて「なぜ手取りが減っているのだろう」と感じることがあります。その理由の一つが、源泉徴収税です。
源泉徴収税は、取引先が報酬を支払う際に、所得税および復興特別所得税をあらかじめ差し引いて国に納める仕組みです。特に、ライター、デザイナー、イラストレーター、カメラマン、講師、士業などのフリーランスは、報酬から源泉徴収される場面が多くあります。
ただし、すべてのフリーランス報酬が源泉徴収の対象になるわけではありません。また、源泉徴収された税金は「取られっぱなし」ではなく、確定申告で最終的な所得税額と精算されます。正しく理解していないと、売上の記帳を間違えたり、還付を受け損ねたり、取引先との請求トラブルにつながったりするため注意が必要です。
この記事では、フリーランスの源泉徴収税について、対象になる報酬、計算方法、請求書の書き方、確定申告での処理、損しないための実務対策までわかりやすく解説します。
1. フリーランスの源泉徴収税とは?まず押さえる基本
1-1. 源泉徴収税とは報酬から所得税等が天引きされる仕組み
源泉徴収税とは、報酬を受け取る本人が後からまとめて税金を納めるのではなく、報酬を支払う側が支払時に一定額の所得税および復興特別所得税を差し引き、本人に代わって国へ納付する仕組みです。
フリーランスの場合、たとえば報酬が10万円で源泉徴収税率が10.21%の場合、源泉徴収税額は10,210円です。実際に振り込まれる金額は、消費税や振込手数料などの条件を除けば、89,790円になります。
つまり、源泉徴収税は取引先に手数料として引かれているものではなく、あなたの所得税等の前払いとして国に納められているお金です。
1-2. フリーランスが源泉徴収される理由
フリーランスは会社員と違い、給与から毎月所得税が天引きされるわけではありません。そのため、一定の報酬については、支払う側があらかじめ税金を徴収することで、所得税の納付漏れを防ぐ仕組みが設けられています。
国税庁では、居住者に支払う一定の報酬・料金等について、原稿料や講演料、弁護士・税理士など特定の資格者への報酬、芸能関係の出演料などを源泉徴収の対象としています。フリーランスであっても、報酬の内容がこの対象に該当すれば、源泉徴収されることがあります。国税庁
1-3. 源泉徴収税は「取られっぱなし」ではなく確定申告で精算される
源泉徴収税は、最終的な税額そのものではありません。あくまで所得税等の前払いです。
フリーランスの所得税は、1年間の売上から必要経費や各種控除を差し引いた所得をもとに計算します。その結果、すでに源泉徴収された金額が本来納めるべき所得税額より多ければ、確定申告によって還付されます。反対に、源泉徴収された金額より実際の所得税額が多ければ、差額を追加で納めます。
たとえば、源泉徴収された合計額が20万円で、確定申告で計算した所得税額が12万円なら、差額の8万円が還付される可能性があります。一方、所得税額が30万円なら、差額の10万円を納付することになります。
1-4. 源泉徴収税・源泉所得税・所得税の違い
「源泉徴収税」「源泉所得税」「所得税」は似た言葉ですが、意味が少し異なります。
源泉徴収税は、報酬や給与などから差し引かれる税金を指す実務上の呼び方です。正式には、所得税と復興特別所得税をあわせて源泉徴収されます。
源泉所得税は、源泉徴収によって差し引かれ、支払者が国に納付する所得税を指す言葉として使われます。実務では復興特別所得税も含めて「源泉所得税」と呼ばれることが多いです。
所得税は、個人の1年間の所得に対して課される税金そのものです。フリーランスの場合、確定申告で1年間の所得税額を計算し、源泉徴収済みの金額を差し引いて精算します。
2. フリーランスで源泉徴収の対象になる報酬・ならない報酬
2-1. 源泉徴収の対象になる主な報酬一覧
フリーランスの報酬で源泉徴収の対象になりやすいものには、次のようなものがあります。
・原稿料、執筆料、翻訳料
・講演料、セミナー登壇料、研修講師料
・デザイン料、イラスト料、画料
・写真撮影料
・作曲料、脚本料、校正・監修に近い報酬
・モデル、俳優、タレント、演奏家などの出演料
・弁護士、税理士、公認会計士、司法書士など特定の士業への報酬
・プロスポーツ選手、外交員、芸能関係者などへの一定の報酬
・広告宣伝のための賞金など
国税庁のタックスアンサーでは、原稿料や講演料、特定の資格者への報酬、出演料、広告宣伝のための賞金などが源泉徴収の対象として整理されています。国税庁
2-2. 原稿料・ライティング報酬が対象になるケース
ライターや編集者が受け取る原稿料、記事執筆料、コラム執筆料、コピーライティング報酬などは、源泉徴収の対象になる代表例です。
たとえば、企業のオウンドメディア記事、雑誌原稿、広告コピー、取材記事、インタビュー記事の執筆報酬などは、実態が原稿料であれば源泉徴収の対象になります。名目が「謝礼」「取材費」「調査費」「車代」などであっても、実態が原稿料や講演料と同じであれば源泉徴収の対象に含まれるため、請求書の名称だけで判断しないことが重要です。国税庁
一方、単なる文字入力作業、データ入力、事務代行など、原稿の制作とはいえない業務は、通常の原稿料とは扱いが異なる場合があります。契約内容や成果物の実態で判断しましょう。
2-3. デザイン料・イラスト料・写真撮影料が対象になるケース
フリーランスのデザイナー、イラストレーター、カメラマンも源泉徴収の対象になりやすい職種です。
ロゴデザイン、広告デザイン、パンフレットデザイン、Webサイトのビジュアルデザイン、バナー制作、イラスト制作、挿絵、漫画制作、商品写真、プロフィール写真、広告写真などの報酬は、デザイン料・画料・写真撮影料として源泉徴収の対象になることがあります。
ただし、Web制作の中でも、デザイン部分とコーディング部分が混在している場合は注意が必要です。デザイン料は対象になりやすい一方、コーディングやプログラミングの報酬は一般的には源泉徴収の対象外と考えられることが多いため、請求書では業務内容を分けて記載すると判断しやすくなります。
2-4. 講演料・セミナー登壇料・出演料が対象になるケース
講演料、セミナー登壇料、研修講師料、ウェビナー出演料なども、源泉徴収の対象になる代表的な報酬です。
たとえば、企業研修の講師、イベント登壇、オンラインセミナー、大学や専門学校での特別講義、パネルディスカッションの登壇料などは、講演料や出演料として源泉徴収されるケースがあります。
また、交通費や宿泊費が「講演料に含めて」支払われる場合、原則として源泉徴収の対象に含まれます。ただし、支払者が通常必要な範囲の交通費や宿泊費をホテルや交通機関へ直接支払う場合は、報酬・料金等に含めなくてもよいとされています。国税庁
2-5. 士業への報酬が対象になるケース
弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、弁理士など、特定の資格者へ支払う報酬は源泉徴収の対象になります。国税庁でも、弁護士や税理士などの業務に関する報酬・料金は源泉徴収の対象とされています。国税庁
ただし、司法書士、土地家屋調査士、海事代理士への報酬については、通常の10.21%計算とは異なり、同一人に1回に支払われる金額から1万円を差し引いた残額に10.21%を乗じる計算方法が定められています。国税庁
士業への報酬は、顧問料、相談料、書類作成料、申請代行料、調査費、日当など名目が分かれていても、業務に関する報酬であれば源泉徴収の対象になることがあります。ただし、登録免許税や印紙代など、本来国等へ納付すべき実費が明確なものは源泉徴収の対象外になる場合があります。
2-6. Web制作・コーディング・システム開発報酬は対象になる?
フリーランスのWeb制作やシステム開発では、源泉徴収の判断に迷いやすいです。
一般的に、プログラミング、コーディング、システム開発、保守運用、サーバー設定などの技術的業務に対する報酬は、所得税法上の「源泉徴収が必要な報酬・料金等」に明確に列挙されていないため、通常は源泉徴収の対象外と考えられます。
一方で、Webサイトのデザイン、LPデザイン、バナー制作、イラスト制作、写真撮影などが含まれる場合、その部分はデザイン料や写真撮影料として源泉徴収の対象になる可能性があります。
たとえば、請求書に「Webサイト制作一式 50万円」とだけ書くと、取引先が安全側に見て源泉徴収することがあります。デザイン料20万円、コーディング料30万円のように内訳を明確にすると、対象部分を判断しやすくなります。
2-7. 法人化している場合は源泉徴収される?
フリーランスが法人化して、株式会社や合同会社として報酬を受け取る場合、原則として個人への報酬のような源泉徴収は行われません。
国税庁の整理では、内国法人に対して報酬・料金等を支払う場合に源泉徴収の対象となるのは、法人である馬主に支払う競馬の賞金など限定的です。通常のデザイン料、原稿料、コンサルティング料などを法人として請求する場合は、個人フリーランスとして受け取る場合とは扱いが異なります。国税庁
ただし、法人化していても、個人名義で契約し個人の口座に振り込まれる場合は、個人への報酬として扱われる可能性があります。契約書、請求書、振込口座、発注名義を法人に統一することが大切です。
2-8. 判断に迷いやすい報酬の具体例
源泉徴収の対象かどうかは、職種名ではなく報酬の内容で判断します。
たとえば、同じ「Web制作」でも、デザイン料は対象になりやすく、コーディング料は対象外と判断されることがあります。同じ「コンサルティング」でも、経営助言の顧問料は原則として源泉徴収対象に列挙されていない一方、講演や原稿執筆を伴う場合はその部分が対象になることがあります。
また、「業務委託費」「外注費」「制作費」という名称でも、実態が原稿料、講演料、デザイン料、写真撮影料などであれば源泉徴収の対象になります。逆に、名称が「謝礼」であっても、対象業務に該当しなければ源泉徴収されない場合があります。
迷った場合は、請求前に取引先へ確認し、必要に応じて税理士や税務署に相談しましょう。
3. フリーランスの源泉徴収税の計算方法
3-1. 基本税率は10.21%
フリーランスの源泉徴収税率は、多くの場合10.21%です。
これは、所得税10%に復興特別所得税を上乗せした税率です。復興特別所得税は所得税額に対して2.1%かかるため、10% × 102.1% = 10.21%となります。
たとえば、源泉徴収対象の報酬が100,000円の場合、源泉徴収税額は次のとおりです。
100,000円 × 10.21% = 10,210円
この場合、源泉徴収後の手取りは89,790円です。
3-2. 1回の支払額が100万円を超える場合の計算式
1回の支払金額が100万円を超える場合、100万円以下の部分と100万円を超える部分で税率が変わります。
計算式は次のとおりです。
100万円以下:支払金額 × 10.21%
100万円超:(支払金額 − 100万円)× 20.42% + 102,100円
たとえば、源泉徴収対象の報酬が150万円の場合は、次のように計算します。
(1,500,000円 − 1,000,000円)× 20.42% + 102,100円
= 500,000円 × 20.42% + 102,100円
= 102,100円 + 102,100円
= 204,200円
国税庁でも、100万円以下は10.21%、100万円超は「(A−100万円)×20.42%+102,100円」とする計算方法が示されています。国税庁
3-3. 消費税を含めて計算する場合・税抜で計算できる場合
源泉徴収税を計算するときに迷いやすいのが、消費税を含めるかどうかです。
原則として、報酬・料金の中に消費税が含まれている場合は、消費税込みの金額を源泉徴収の対象にします。ただし、請求書などで報酬本体と消費税額が明確に区分されている場合は、税抜の報酬本体のみを源泉徴収の対象にしてもよいとされています。この取り扱いは、インボイス制度開始後も変更ありません。国税庁
たとえば、次のように請求書で明確に分けている場合です。
報酬:100,000円
消費税:10,000円
源泉徴収税:10,210円
請求合計:110,000円
差引振込額:99,790円
この場合、源泉徴収税は報酬100,000円に対して計算しています。一方、「税込報酬 110,000円」とだけ記載している場合は、110,000円に10.21%をかけて計算される可能性があります。
3-4. 手取り額から逆算する計算方法
契約で「手取り10万円でお願いします」と決まっている場合は、源泉徴収前の報酬額を逆算する必要があります。
税率10.21%の場合、手取り額から支払金額を逆算する式は次のとおりです。
手取り額 ÷ 0.8979 = 源泉徴収前の支払金額
たとえば、手取り100,000円にしたい場合は次のようになります。
100,000円 ÷ 0.8979 = 111,370円
111,370円 × 10.21% = 11,370円
111,370円 − 11,370円 = 100,000円
国税庁も、手取契約で税率10.21%の場合は「手取額÷0.8979」で支払金額を求める方法を示しています。国税庁
3-5. 源泉徴収税額の計算例
フリーランスの源泉徴収税額を具体例で確認しましょう。
例1:原稿料100,000円、消費税を区分している場合
報酬:100,000円
消費税:10,000円
源泉徴収税:100,000円 × 10.21% = 10,210円
振込額:100,000円 + 10,000円 − 10,210円 = 99,790円
例2:デザイン料300,000円、消費税を区分している場合
報酬:300,000円
消費税:30,000円
源泉徴収税:300,000円 × 10.21% = 30,630円
振込額:330,000円 − 30,630円 = 299,370円
例3:講演料1,500,000円、消費税を区分している場合
報酬:1,500,000円
消費税:150,000円
源泉徴収税:(1,500,000円 − 1,000,000円)× 20.42% + 102,100円 = 204,200円
振込額:1,650,000円 − 204,200円 = 1,445,800円
3-6. 端数処理の考え方
源泉徴収税額に1円未満の端数が出た場合は、切り捨てます。たとえば、報酬33,333円に10.21%をかけると3,403.2993円になりますが、源泉徴収税額は3,403円です。
国税庁の計算例でも、求めた税額に1円未満の端数があるときは切り捨てるとされています。国税庁
4. 請求書に源泉徴収税をどう書く?記載例と注意点
4-1. 請求書に源泉徴収税額を記載すべき理由
フリーランスが源泉徴収対象の報酬を請求する場合、請求書には源泉徴収税額を記載するのが実務上おすすめです。
理由は、取引先との認識違いを防げるからです。請求額、消費税、源泉徴収税額、実際の振込額が明確になっていれば、入金時に「請求額より少ない」と慌てることがありません。
また、確定申告では、源泉徴収された金額を集計して申告書に反映する必要があります。請求書に源泉徴収税額を残しておけば、後から取引先ごとに確認しやすくなります。
4-2. 請求書の基本的な書き方
源泉徴収がある請求書では、次の項目を分けて記載します。
・報酬本体
・消費税
・源泉徴収税額
・差引請求額または振込予定額
基本的な書き方は次のとおりです。
報酬額:100,000円
消費税:10,000円
小計:110,000円
源泉徴収税額:10,210円
差引ご請求額:99,790円
ポイントは、源泉徴収税額をマイナス表示にすることです。これにより、請求総額から源泉徴収税が差し引かれて振り込まれることが一目でわかります。
4-3. 消費税あり・なしの請求書記載例
消費税を請求する場合の記載例は次のとおりです。
【消費税あり・税抜報酬に源泉徴収する例】
業務内容:記事執筆料
報酬:100,000円
消費税:10,000円
源泉徴収税額:−10,210円
お振込額:99,790円
消費税を請求しない場合、または免税事業者で消費税を明記しない場合の例は次のとおりです。
【消費税なしの例】
業務内容:記事執筆料
報酬:100,000円
源泉徴収税額:−10,210円
お振込額:89,790円
消費税を請求する場合は、報酬本体と消費税額を明確に区分しておくことで、税抜報酬を源泉徴収対象にしやすくなります。国税庁
4-4. 源泉徴収後の振込額の計算方法
源泉徴収後の振込額は、次の式で計算します。
振込額 = 報酬本体 + 消費税 − 源泉徴収税額
たとえば、報酬200,000円、消費税20,000円、源泉徴収税額20,420円の場合は、次のようになります。
200,000円 + 20,000円 − 20,420円 = 199,580円
このとき、売上は199,580円ではなく、報酬200,000円と消費税20,000円を含む請求額ベースで管理します。源泉徴収税額は、入金されていないから売上ではないと考えるのではなく、あなたの税金として前払いされた金額として処理します。
4-5. インボイス制度との関係
インボイス制度が始まった後も、源泉徴収税の計算における消費税の取り扱いは基本的に変わっていません。請求書等で報酬・料金と消費税額が明確に区分されていれば、報酬本体のみを源泉徴収の対象として差し支えないとされています。国税庁
インボイス登録事業者の場合は、適格請求書の記載事項を満たしつつ、源泉徴収税額も記載すると実務上わかりやすくなります。免税事業者の場合でも、報酬額と源泉徴収税額を明確にしておくことは重要です。
4-6. 請求書に源泉徴収税を書き忘れた場合の対処法
請求書に源泉徴収税を書き忘れても、源泉徴収の対象となる報酬であれば、取引先が支払時に源泉徴収することがあります。
この場合、まずは取引先に実際の源泉徴収税額と振込額を確認しましょう。必要であれば、源泉徴収税額を反映した請求書を再発行するか、メールで差額の内訳を残しておきます。
反対に、本来は源泉徴収の対象なのに満額で振り込まれた場合も、取引先に確認することをおすすめします。源泉徴収義務は原則として支払者側にありますが、フリーランス側も確定申告で売上と税額を正しく申告する必要があります。
5. 源泉徴収されたフリーランスが確定申告でやるべきこと
5-1. 確定申告で源泉徴収税を申告する流れ
源泉徴収されたフリーランスは、確定申告で次の流れに沿って処理します。
まず、1年間の売上を集計します。このとき、入金額ではなく源泉徴収前の報酬額を売上として集計します。
次に、取引先ごとに源泉徴収税額を集計します。請求書、入金明細、支払通知書、支払調書などをもとに確認しましょう。
そのうえで、確定申告書に売上、経費、所得控除、税額控除などを入力し、最終的な所得税額を計算します。最後に、すでに源泉徴収された税額を差し引いて、還付または追加納税を判断します。
5-2. 収入金額と源泉徴収税額の確認方法
収入金額と源泉徴収税額は、次の資料で確認できます。
・自分が発行した請求書
・取引先からの支払通知書
・銀行口座の入金明細
・会計ソフトの売掛金・入金データ
・取引先から届く支払調書
最も信頼すべきなのは、自分の請求書と帳簿です。支払調書は便利ですが、必ず届くとは限らず、届いたとしても自分の帳簿と一致しない場合があります。
5-3. 支払調書が届かない場合の対応
支払調書が届かなくても、確定申告はできます。
「支払調書がないと確定申告できない」と誤解されがちですが、フリーランス側は自分の帳簿、請求書、入金記録をもとに収入金額と源泉徴収税額を申告します。支払調書は、支払者が一定の条件に該当する場合に税務署へ提出する法定調書であり、報酬を受け取った本人への交付が常に義務付けられている書類ではありません。
国税庁のFAQでも、報酬・料金・契約金・賞金の支払調書は所得税法上、本人に交付する義務がないとされています。国税庁
5-4. 売上と入金額を間違えないための仕訳・記帳方法
源泉徴収がある場合、売上と入金額を同じにしてしまうと、売上が過少に記帳されてしまいます。
たとえば、報酬100,000円、消費税10,000円、源泉徴収税10,210円、入金額99,790円の場合、売上は99,790円ではありません。
会計処理のイメージは次のとおりです。
売掛金:110,000円
売上:100,000円
仮受消費税:10,000円
入金時は、普通預金99,790円と事業主貸または仮払税金など10,210円に分けて処理します。会計ソフトによって勘定科目の名称は異なりますが、源泉徴収税額を「所得税の前払い」として管理することが重要です。
5-5. 源泉徴収税額を申告書に入力する場所
確定申告では、源泉徴収された金額を「源泉徴収税額」として入力します。
会計ソフトや確定申告書等作成コーナーを使う場合は、売上先ごとの収入金額と源泉徴収税額を入力する欄が用意されていることがあります。事業所得として申告する場合、収支内訳書または青色申告決算書で売上や経費を整理し、確定申告書で源泉徴収税額を反映します。
入力漏れがあると、還付されるはずの税金が戻らなかったり、納付額が多く表示されたりします。取引先ごとの源泉徴収税額一覧を作っておくと、申告時に確認しやすくなります。
5-6. 還付になるケースと追加納税になるケース
還付になるのは、源泉徴収された金額が、確定申告で計算した所得税額より多い場合です。
たとえば、経費が多かった年、所得控除が大きい年、開業初年度で利益が少ない年などは、源泉徴収税額が納めすぎになり、還付されることがあります。
一方で、追加納税になるのは、源泉徴収税額より実際の所得税額が多い場合です。売上が大きく利益も多い場合、源泉徴収されていない報酬が多い場合、副業や不動産所得など他の所得がある場合は、追加で納税が必要になることがあります。
6. 源泉徴収税で損しないための実務対策
6-1. 源泉徴収税額を自分でも必ず確認する
源泉徴収税額は、取引先が計算してくれることが多いですが、フリーランス側でも必ず確認しましょう。
特に、消費税を含めて計算されているか、税抜金額で計算されているか、100万円超の計算になっているか、端数処理が正しいかは確認すべきポイントです。
取引先の経理担当者が必ずしもフリーランス報酬の源泉徴収に詳しいとは限りません。誤った金額で処理されると、請求書、帳簿、支払調書、確定申告の数字がずれてしまいます。
6-2. 取引先ごとに報酬額・源泉徴収額を管理する
源泉徴収税で損しないためには、取引先ごとに次の項目を管理しましょう。
・請求日
・入金日
・取引先名
・報酬本体
・消費税
・源泉徴収税額
・実際の入金額
・支払調書の有無
取引先が複数あるフリーランスほど、年末にまとめて確認するのは大変です。毎月の記帳時に源泉徴収税額まで入力しておけば、確定申告前に慌てずに済みます。
6-3. 支払調書に頼らず帳簿と請求書で管理する
支払調書は、取引先が発行してくれることもありますが、必ず受け取れるとは限りません。また、支払調書の金額は支払者側の集計であり、フリーランス側の売上計上時期と一致しないこともあります。
そのため、確定申告では支払調書だけに頼らず、自分の帳簿と請求書を基準に管理することが大切です。
支払調書が届いた場合は、帳簿と照合する資料として使いましょう。金額が違う場合は、どちらが正しいかを確認し、必要に応じて取引先へ問い合わせます。
6-4. 経費を正しく計上して税負担を抑える
源泉徴収税は売上に対して機械的に差し引かれるため、経費の多いフリーランスほど、確定申告で還付になる可能性があります。
たとえば、パソコン、ソフトウェア、通信費、取材交通費、資料代、撮影機材、外注費、打ち合わせ費用、自宅兼事務所の家事按分など、事業に必要な支出は正しく経費計上しましょう。
ただし、何でも経費にできるわけではありません。事業との関連性、金額の妥当性、証拠書類の保存が重要です。領収書やクレジットカード明細、請求書などを整理しておきましょう。
6-5. 還付申告を忘れない
源泉徴収されているフリーランスで、所得税を納めすぎている場合は、確定申告によって還付を受けられます。
特に、次のような人は還付の可能性があります。
・開業初年度で経費が多かった
・売上はあるが利益が少なかった
・医療費控除や扶養控除など所得控除が大きい
・源泉徴収される取引が多い
・年の途中で会社員から独立した
還付申告をしなければ、納めすぎた税金は自動的には戻ってきません。源泉徴収税額をきちんと集計し、確定申告で反映しましょう。
6-6. 源泉徴収の対象外なのに天引きされた場合の対処法
本来は源泉徴収の対象外と思われる報酬から源泉徴収されている場合は、まず取引先に確認しましょう。
たとえば、システム開発やコーディングのみの報酬なのに源泉徴収されている場合、取引先が「フリーランスへの外注費はすべて源泉徴収」と誤解している可能性があります。請求書や契約書で業務内容を明確にし、必要に応じて修正を依頼します。
すでに源泉徴収され、取引先が国へ納付している場合は、確定申告で源泉徴収税額として反映して精算するのが一般的です。返金処理をするかどうかは、取引先の処理状況によります。
6-7. 源泉徴収されていない場合に確認すべきこと
源泉徴収されていないからといって、すぐに違法とは限りません。
確認すべきポイントは次の3つです。
まず、報酬の内容が源泉徴収の対象かどうかです。対象外の業務であれば、源泉徴収されなくても問題ありません。
次に、支払者が源泉徴収義務者かどうかです。法人や給与を支払っている個人事業主は源泉徴収義務者になることがありますが、給与を支払っていない個人が支払う弁護士報酬などは、源泉徴収不要とされています。国税庁
最後に、契約名義が個人か法人かです。あなたが法人として請求している場合、個人フリーランスへの支払いとは扱いが異なる場合があります。
7. フリーランスが源泉徴収でよくあるトラブルと解決策
7-1. 取引先によって源泉徴収の有無が違う
同じフリーランスの仕事でも、取引先によって源泉徴収される場合とされない場合があります。
これは、報酬内容の判断が違う場合、支払者が源泉徴収義務者ではない場合、請求書の書き方が違う場合などがあるためです。
解決策は、契約前または請求前に「源泉徴収の有無」「消費税の扱い」「振込予定額」を確認することです。特に初回取引では、請求書を発行する前に経理担当者へ確認しておくとトラブルを防げます。
7-2. 源泉徴収税額が間違っている
源泉徴収税額が間違っている場合は、まず計算根拠を確認します。
よくあるミスは、10.21%ではなく10%で計算している、消費税を含めるかどうかの認識が違う、100万円超の計算式を使っていない、端数処理が間違っている、といったケースです。
間違いが見つかったら、請求書を修正するか、取引先に支払通知書の修正を依頼します。入金後に気づいた場合でも、確定申告に影響するため、メールなどで修正内容を記録に残しておきましょう。
7-3. 消費税まで源泉徴収されている
消費税込みの金額に対して源泉徴収されている場合でも、必ずしも誤りとは限りません。原則として、消費税を含めた金額が源泉徴収の対象になるためです。
ただし、請求書で報酬本体と消費税額を明確に区分している場合は、報酬本体のみを源泉徴収対象にして差し支えないとされています。国税庁
今後の取引では、請求書に報酬本体、消費税、源泉徴収税額を分けて記載し、税抜金額に対して源泉徴収してほしい旨を事前に伝えるとよいでしょう。
7-4. 支払調書の金額と帳簿が合わない
支払調書の金額と自分の帳簿が合わない場合、まず売上計上時期の違いを確認しましょう。
フリーランス側は発生主義で売上を計上している一方、取引先は実際に支払った年で支払調書を作成していることがあります。たとえば、12月に納品・請求し、翌年1月に入金された報酬は、帳簿と支払調書で年がずれることがあります。
また、消費税の扱い、源泉徴収対象額、振込手数料の控除などで差が出ることもあります。支払調書だけを正として帳簿を安易に修正するのではなく、請求書と入金記録を確認しましょう。
7-5. 報酬が外注費・業務委託費でも源泉徴収されるのか迷う
「外注費」「業務委託費」という名称でも、実態が源泉徴収対象の報酬であれば源泉徴収されます。
たとえば、請求書に「業務委託費」と書いていても、その内容が記事執筆、デザイン制作、写真撮影、講演であれば、源泉徴収の対象になる可能性があります。
一方で、単なるシステム開発、データ入力、事務代行、物品販売などは、源泉徴収対象に該当しない場合があります。名称ではなく、実際に何の対価として支払われているかを確認しましょう。
7-6. 取引先からマイナンバー提出を求められた
取引先が支払調書を作成する場合、報酬を受け取るフリーランスのマイナンバーが必要になることがあります。国税庁では、平成28年1月1日以後に支払の確定する報酬・料金等の支払調書には、支払を受ける人のマイナンバーまたは法人番号を記載する必要があるとしています。国税庁
ただし、マイナンバーは重要な個人情報です。提出する場合は、利用目的、提出方法、本人確認書類の扱い、保管方法を確認しましょう。メール添付で送る場合はパスワード設定や安全な提出方法を求めるなど、慎重に対応することが大切です。
8. 発注側がフリーランスに報酬を支払う場合の源泉徴収義務
8-1. 源泉徴収義務者になるケース
発注側がフリーランスに報酬を支払う場合、支払者が源泉徴収義務者であり、かつ報酬内容が源泉徴収対象であれば、支払時に所得税および復興特別所得税を差し引く必要があります。
法人は基本的に源泉徴収義務者になります。個人事業主でも、従業員や青色事業専従者に給与を支払っている場合は、源泉徴収義務者になることがあります。
一方、支払者が個人で、給与等の支払者でない場合や、常時2人以下の家事使用人のみに給与を支払っている場合は、ホステス等への報酬を除き、報酬・料金等の源泉徴収は不要とされています。国税庁
8-2. 源泉徴収した税金の納付期限
源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則として報酬を支払った月の翌月10日までに国へ納付します。国税庁も、源泉徴収した所得税等は原則として実際に支払った月の翌月10日までに納める必要があるとしています。国税庁
ただし、報酬の種類によって納期の特例の対象になるものとならないものがあります。たとえば、原稿料や講演料などは納期の特例の対象にならないとされています。国税庁
発注側は、報酬の種類に応じて使用する納付書や納付期限を確認する必要があります。
8-3. 報酬・料金等の所得税徴収高計算書の使い方
原稿料、講演料、デザイン料などの報酬から源泉徴収した場合は、原則として「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」を使って納付します。
一方、弁護士や税理士、司法書士など士業への報酬では、使用する納付書や納期の特例の扱いが異なる場合があります。国税庁の案内でも、原稿料や講演料などは「報酬・料金等の所得税徴収高計算書」、弁護士や税理士等への報酬は「給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書」を添えて納付する案内が示されています。国税庁+1
発注側は、報酬の区分を誤ると納付書の種類や納付期限を間違える可能性があるため、税務署や税理士に確認しながら処理しましょう。
8-4. 支払調書の作成・提出が必要なケース
発注側は、一定の報酬・料金等を支払った場合、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成し、所轄税務署へ提出する必要があります。
たとえば、弁護士や税理士等への報酬、作家や画家への原稿料・画料、講演料等については、同一人に対するその年中の支払金額の合計額が5万円を超えるものが提出範囲に含まれます。支払調書は、原則として支払の確定した日の属する年の翌年1月31日までに提出します。国税庁
なお、支払調書の提出範囲と源泉徴収の要否は完全に同じではありません。法人に支払われる報酬など、源泉徴収の対象とならないものでも、支払調書の提出範囲に該当する場合があります。
8-5. 源泉徴収漏れがあった場合のリスク
発注側が本来源泉徴収すべき報酬から税金を差し引いていなかった場合、後から税務署に指摘され、未納の源泉所得税を納付する必要が出ることがあります。
さらに、納付が遅れた場合は、不納付加算税や延滞税が発生する可能性があります。フリーランス側が確定申告をしていたとしても、源泉徴収義務そのものは支払者側にあるため、発注側は注意が必要です。
源泉徴収漏れを防ぐには、発注時点で「支払先が個人か法人か」「報酬内容が源泉徴収対象か」「自社が源泉徴収義務者か」を確認する体制を作りましょう。
9. フリーランスの源泉徴収税に関するよくある質問
9-1. 源泉徴収されていない報酬は違法?
源泉徴収されていない報酬が、必ず違法というわけではありません。
報酬の内容が源泉徴収対象外である場合や、支払者が源泉徴収義務者でない場合、法人として報酬を受け取っている場合などは、源泉徴収されないことがあります。
ただし、本来源泉徴収されるべき報酬なのに満額で支払われている場合は、取引先に確認しましょう。フリーランス側は、源泉徴収の有無にかかわらず、確定申告で売上を正しく申告する必要があります。
9-2. 源泉徴収税はいつ戻ってくる?
源泉徴収税が戻ってくるのは、確定申告の結果、納めすぎになっている場合です。
還付申告をすると、申告内容が確認された後、指定した銀行口座に還付金が振り込まれます。e-Taxで申告した場合は、書面申告より還付処理が早い傾向がありますが、申告内容や時期によって変わります。
還付を受けるには、源泉徴収税額を申告書に正しく入力することが必要です。
9-3. 副業フリーランスでも源泉徴収される?
副業フリーランスでも、報酬の内容が源泉徴収対象であれば源泉徴収されます。
会社員として給与を受け取っているかどうかは、フリーランス報酬の源泉徴収の有無とは別の問題です。たとえば、副業で記事執筆やデザイン制作、講演を行って報酬を受け取る場合、取引先が源泉徴収義務者であれば源泉徴収される可能性があります。
副業収入がある人は、会社の年末調整だけではフリーランス報酬の税金は精算されません。必要に応じて確定申告を行いましょう。
9-4. 個人から依頼された仕事でも源泉徴収される?
個人から依頼された仕事でも、支払者が源泉徴収義務者であれば源泉徴収されることがあります。
たとえば、従業員に給与を支払っている個人事業主が、個人のライターやデザイナーに源泉徴収対象の報酬を支払う場合は、源泉徴収が必要になることがあります。
一方、会社員など給与支払者ではない個人が、確定申告のために税理士へ報酬を支払う場合などは、源泉徴収する必要はないとされています。国税庁
9-5. 源泉徴収票と支払調書は違う?
源泉徴収票と支払調書は違う書類です。
源泉徴収票は、主に給与や退職金を支払った場合に発行される書類です。会社員が年末調整後に受け取る「給与所得の源泉徴収票」が代表例です。
一方、フリーランスが受け取ることが多いのは「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」です。これは、取引先が一定の報酬を支払った場合に税務署へ提出する法定調書です。フリーランス本人へ必ず交付されるものではないため、支払調書が届かなくても、自分の帳簿をもとに確定申告を行います。
9-6. 源泉徴収税は経費にできる?
源泉徴収税は経費ではありません。
源泉徴収税は、あなた自身の所得税等の前払いです。事業のために支払った費用ではないため、必要経費にはできません。
会計処理では、事業主貸、仮払税金、源泉所得税などの科目で管理されることがあります。重要なのは、売上から差し引かれたからといって売上を減らさないことです。売上は源泉徴収前の金額で計上し、源泉徴収税額は確定申告で税額から差し引いて精算します。
まとめ
フリーランスの源泉徴収税は、報酬から所得税および復興特別所得税があらかじめ差し引かれる仕組みです。原稿料、デザイン料、イラスト料、写真撮影料、講演料、出演料、士業への報酬などは源泉徴収の対象になりやすい一方、すべての業務委託報酬が対象になるわけではありません。
基本税率は10.21%で、1回の支払金額が100万円を超える場合は、100万円超の部分に20.42%を使う計算になります。消費税については、原則として税込金額が源泉徴収対象ですが、請求書で報酬本体と消費税を明確に区分していれば、税抜報酬を対象にできます。
源泉徴収された税金は、取られっぱなしではありません。確定申告で年間の所得税額と精算され、納めすぎていれば還付されます。そのため、フリーランスは請求書、帳簿、入金明細をもとに、売上額と源泉徴収税額を正確に管理することが大切です。
損しないためには、請求書に源泉徴収税額を明記し、取引先ごとの報酬額と源泉徴収額を記録し、支払調書だけに頼らず自分の帳簿で管理しましょう。源泉徴収の有無や金額に迷った場合は、早めに取引先へ確認し、必要に応じて税理士や税務署に相談することが安心です。

